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BBSメイル・ゲーム…プレイボード

6 ::2009/09/28(月) 02:54:29 ID:JJHU0Dqk0
承前その3
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 バーデンヴォルフの町は夏も終わりになり、南から時折涼しい風が吹くようになった。これももう

少し日が経つと冷たいものとなり、あっという間に冬になる。灰色の空を見上げながらディルクはふ

とそんなことを思い浮かべた。すると横から、
「……なにぼさっとしてるのよ!ほら、歩いてる人の邪魔でしょ!」
「歩いている人って、みんなそんな近くを通らないよ」
 エリーカと自分の周りをはさむように立っている2人の護衛の姿を見、さらには自分たちから距離

をとって行き交う町の人々を見ながら応えると、
「あたしがいるじゃない!あなたが突っ立っているとあたしが進めないの。それともあたしの邪魔な

らしてもいいっていうの!?」
 だったらこの手を離せばいいのに、そう思いはしたものの口には出さず、
「申し訳ございませんでした、お嬢様。では参りましょうか?」
 僕の言葉にまだ釈然としないのか、ふんと鼻を鳴らした後、僕のつかんだ腕を引っ張るようにして

歩き始める。
「お嬢様……」
「その『お嬢様』ってのやめてって何度も言ってるでしょ!あたしの名前はそんなに難しくないんだ

から」
 小さく聞こえないようにため息をひとつ吐いてから、
「エリーカ様、そんなに急がなくとも彼らは消えてなくなりませんよ。領主様との話し合いはまだ終

わらないようでしたから」
「ディルク、そんなのわからないじゃない。お父様は一旦決めてしまわれると、隼のように素早くす

べてのことを動かしてしまうんだから。こうしている間に彼らを帰してしまうかもしれないわ」
 まずそれはないだろうなぁ、最近の周りの様子や領地内の出来事を多少なりとも知れる立場にいる

ので、今回の“彼ら”の訪問は領主様にとっても判断が難しいだろうと、僕は判断している。そして

、僕にもおそらく戦う機会が得られるのではないか、とも。
 末席とはいえ、最近ようやく大人たちの会合や訓練に参加できるようになった自分だが、このとこ

ろ領地の内部や周囲でさまざまな問題が起きているそうだ。

7 ::2009/09/28(月) 02:57:15 ID:JJHU0Dqk0
>>6
の続き。

 北部の山岳地帯にあるどこかの領主が行方不明だか、惨殺されただかでエリ川の上流に勢力を持つ

カヴァーフ家がやたら人や物を集めているとか。
 南から迷い込んだらしい巨獣が領地からそれほど遠くない場所で居ついてしまっているとか。
 沼地の北岸に住み着いている人々が、沼人たちの襲撃に悩まされ領主様の庇護を求めているだけで

なく、それに伴って領域を拡大しいっそ独自の王国を打ち立ててみてはと働きかけてくる人がちらほ

ら。
 そんなことできるはずないのに。
「ふぅぅ……」
 思わずため息が出てしまう。
「……なによ、そんなにあたしと一緒にいるのが嫌?」
「へ、ああ、いや、そういう訳ではなく……」
「だったら今のため息は何!?」
 こちらを見ず、相変わらず腕を引っ張り前に進みながら、低く沈んだ声でそんなことを言われると

、思わず頭が混乱してしまう。左腕をつかんだ手がさっきより痛い。危ない、これは早く何とかしな

いと泣かれてしまう。幼い頃からの経験がそう告げる。
「いえ、自分の母から聞いた奥様の話をふと思い出してしまい、つい……」
 自分としては、即興とはいえ、充分及第点の回答を導き出したつもりだったが、お嬢様は落第点だ

と思ったらしい。

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