ツキが無いときは本当に訳のわからない不幸に見舞われる。
それはTRPGにおいても同じことが言えた。
私はあのセッションを思い返すたび、つくづくこの言葉を頭に浮かべたものだ。
幸運から見放されたそのセッションはセブンフォートレスV3というルール。
先輩GMにプレイヤーは先輩1人、同級生1人、そして私の3人。合計4人構成の下、ゲームは開始された。
TRPGではキャラクターを自分で作ることが多い。その例に違わず、このセッションでも各プレイヤーごとにキャラクター作成を行った。
各プレイヤーの役割分担は以下のようになった。
先輩 :魔法攻撃担当
私 :回復担当
同級生:武器攻撃担当
さて、私がTRPGを遊ぶときには特徴的な癖が出る。
基本的に私は攻撃系のキャラクターを作りたがらず、いつも回復や防御系統に強化したキャラクターばかりを作成する。
そのため、攻撃系のキャラクターを作ったとしても防御に思考に集中させてしまう癖である。
また、今回はプレイヤーが3人と少ないために回復役のキャラクターを護ってくれるほど余裕はない。
むしろ先輩のキャラクター、魔法使いの方がひ弱なので、同時に攻撃を受ければ私のキャラクターは自らの傷を引きずりながら魔法使いを回復させることになる。
とすると、ある程度防御力を持たせたほうが良いだろう。
そう思い、回復能力を持ちつつもある程度堅いキャラクターとなった。
この堅さが後々役に立つことになろうとはこの時の私には想像できなかった。
セッションは始まった。
私のキャラクターが生まれ育った教会にゾンビが出現して、それを追い払うべく戦闘が始まった。
同級生のキャラクターが前線に切り込み、先輩の魔法使いが後方から火力援護を行う。
初めての戦闘だからGMの繰り出すエネミーの強さも控えめ。力押しでも勝てる戦闘のはず。
私に出来ることはゾンビの足止めと万が一ダメージを受けた仲間を回復させることぐらいだと思っていた。
その認識は悲劇が起こるまで変わることはなかった。
GM | : | 「じゃあ、2体目は移動してプリーストに攻撃!!」 |
私 | : | 「まぁ、前衛が1人だから1体はこっちに来るか」 |
GM | : | 「命中判定……(ダイスを振る)」 |
私 | : | 「回避判定は……(ダイスを振る)……ファンブル」 |
ファンブルとはTRPG用語で判定でダイスを振ったときに最悪な出目を指すことだ。
今回のセブンフォートレスV3というルールではファンブルによって判定の達成値はかなり下がってしまう。
案の定、攻撃は命中。だが、回避判定でファンブルしたとて回避出来ないだけだ。
GMの攻撃判定の次に行う防御判定をやり過ごせば、持ち前の防御力で敵からのダメージを最小限に留めることが……出来たはずだった。
私 | : | 「防御判定……(ダイスを振る)……嘘だろ?」 |
ダイスの出目はまたしてもファンブルを示している。
初めての戦闘においてプリーストは大ダメージを受けたのだった。
このセッションで1番目立ったのは私が頻発したファンブルだった。
何の判定においてもファンブルをやらかすのが1番のマイナスである。
行動値を決定するための判定でファンブルを繰り返して行動出来ない状態が続き、エネミーからのタコ殴りに遭い、次の状況で起こしたファンブルは……
私 | : | 「遺跡も近くなりましたので、そろそろトラップ探知したいのですが……」 |
GM | : | 「では、知覚で判定してくれ」 |
トラップ探知の基となる知覚という能力値は私が1番高かった。
人数も少なく、ダンジョン探索専用のキャラクターもいない状況だったのでとりあえず私が知覚判定を行ったのだが……
振り返ってみるとやはり誰かに代わってもらった方が良かったのだろう。
私 | : | 「知覚判定は……(ダイスを振る)……ファンブル!!」 |
GM | : | 「君は周囲全てが地雷原に思えた」 |
微妙な空気と共に冷ややかな笑いが流れたものだ。
ツキが無いときは本当に訳の分からない不幸に見舞われる。
これはこのコラムの最初に書いた言葉だが、今までのことは単に私のツキが無いから起こった悲劇だった。
しかし、これから書くことは今までの悲劇よりもはるかに致命的だった不幸は決して私のせいではない。
そう、絶対に抗い切れるものではなかった。
その1つはGMが私のキャラクターを攻撃するときの異常な出目の偏り。
GM | : | 「では、プリーストに攻撃。命中判定……(ダイスを振る)」 |
私 | : | 「受けを宣言。回避判定……(ダイスを振る)……受けに成功」 |
受けをすることで攻撃を必ず受ける代わりにダメージを大きく減らすことが出来る。下手に回避を失敗するよりかは受けに回ったほうが無難である。
強固な防御力もあり、ダメージ0の可能性も十分あった。
GM | : | 「受けられたか。攻撃判定は……(ダイスを振る)……クリティカル!!」 |
私 | : | 「はぁ!?」 |
クリティカルとはファンブルの反対。
他のルールでは判定の達成値が大きく上昇するだけで済むのだが、
GM | : | 「……(ダイスを振る)……(ダイスを振る)」 |
私 | : | 「GM、何回クリティカルしてるんですか?」 |
セブンフォートレスではクリティカルするともう1度ダイスを振り、その出目によってはまたクリティカルが発生して達成値が上がる可能性があった。
私はGMに嫌われていたのだろうか? それともダイスの神様に嫌われていたのだろうか?
結果、GMの2回クリティカルした攻撃はかなり凶悪なものとなっていた。
ツキが無いときは本当に訳の分からない不幸に見舞われる。
私 | : | 「えぇと、重症状態になったので誰か助けてはもらえないでしょうか?」 |
GM | : | 「オーケー。教会にいるプリーストが傷ついたあなたを治療した」 |
このセッション中、私は何度か死ぬ1歩手前の重症状態になることがあった。
重症状態では一切の行動が行えず、自力で回復魔法を使うことも出来ない。
そもそも、重症状態を回復するなどということは初期レベルの私のキャラクターには不可能だった。
しかし、戦った場所が私の知己とする教会だったがために他のプリーストが回復してくれることになった。なったのだが、
GM | : | 「魔法の発動判定は……(ダイスを振る)成功」 |
私 | : | 「これで助かったか」 |
だが、ここでまたしても思い知ることとなる。
ついていないときは常に油断が出来ないのだということを。
GM | : | 「回復量は……っと(ダイスを振る)ファンブル!! −3点回復」 |
私 | : | 「−3点……はぁ?」 |
回復は回復でも−3点の回復ということは3点のダメージを受けるということ。
ただでさえ、死にかけていた私のキャラクターはさらに1歩近づくこととなった。
これでさらにファンブルの回復を食らったとしたら、それは素敵すぎるとどめの一撃になっていただろう。
「君のキャラクターじゃなかったら死んでるよ」と1度、GMに言われたことがある。
確かに数多くの不運に遭いながらも強化した防御力によってなんとか生き延びては来ている。
全く同じ状況を他のプレイヤーが作ったキャラクターが味わったら、と思うとGMの言う通りなのかもしれない。
そういう意味では、ツキという意味で散々だったセッションだが学び得たものもある。
ゲームというものはどうしてもツキが結果に絡んでくる。だからこそ、ツキに見放されたときのために備えをしておくべきじゃないだろうか。
例えば、防御力を上げたり、矢面に立たないような戦法を取ってみたり、戦闘を回避出来るように交渉を重ねてみたり……
セッションが終わって1年経つが実際にこのような備えが出来たとはまだまだ思えない。
だが、これからもっと多くの場数を踏むことで備えを